黒キャベツ(kara lahana/cavolo nero)

henri772005-01-05


洋物が続いて恐縮だが、これも最近イタリア食材ブームに連動してか最近野菜市場で出回っている珍しい野菜。名前の通りキャベツの仲間だが、ちりめんキャベツやブロッコリなど結球しないキャベツと同系列。固くて生で食べるには向かないが、煮るとほうれん草とキャベツの間の子の様な深い風合いが滲みだしてくる。後から、この味はブロッコリーの葉っぱと同じ系統だと気づいた。ブロッコリをたくさん使った時は普通捨ててしまう葉っぱを取っておいて代用に使っても良いかもしれない。寒い土地でも良く育つ野菜で黒海周辺でよく食べられているようだ。何故かトスカーナ地方(フィレンツェのあるところ)の名産になっていて、日本ではトスカーナ料理の食材としての方が有名。トルコ語のlahanaもイタリア語のcavoloもキャベツの意味で、karaもneroも黒のことなので、日本語訳は忠実な直訳ということになる。

ドルマ(dolmasi)という料理に使われているのを食べたことがある。ドルマは、ロールキャベツやピーマンの肉詰め等の起源となった料理で、要は、野菜(貝を使った奴もある)に米や肉の詰め物をして煮込んだ料理だ。スラブ、アラビア、トルコからギリシャまで広く分布していて、色んなバエリエーションがある。キャベツ系統以外にもブドウの葉っぱ、ピーマンなど、色んな野菜を使う。作りかたは、牛のひき肉と炊いた米、みじん切りのタマネギを混ぜ、塩こしょうする。それを茹でた黒キャベツを何枚か並べたもので包んで、白ワインと牛ストックで塩こしょうで調味して煮込む。米が入ると汁気が吸い込まれて実に美味い。

トスカーナ料理からもリボッリータ(Ribollita)という一品。鍋にオリーブオイルを入れ、ニンニクとタマネギ、セロリのみじん切りを炒める。香りが立ったら、スープストックを注ぎ、黒キャベツの細かく切ったもの、柔らかく茹でたインゲン豆とトマトの水煮を加えて、塩こしょうで調味して煮込む。黒キャベツが柔らかくなったら、パンの残りをちぎって入れ、パンが柔らかくなったら出来上がり。要は、イタリア風雑炊だ。どこの国でも農家は貧しく、ヨーロッパの農家の日常食は少量の肉片と大量の豆や野菜で作ったごった煮スープとパンの食べ合わせだった。これは、その翌日の再利用レシピである。似た料理はフランスやドイツの田舎町等にも幾つも存在する。元々レストランなどハレの料理ではなく家庭料理だ。肉の単一の味ではなく、野菜を組み合わせた優しく豊な味は母親の味なのだろう。

萵苣薹(ちしゃとう)

henri772005-01-04


ステムレタスという葉が巻かないタイプのレタスの仲間だ。焼き肉屋さんで出てくるサンチュなども同じグループに属している。結球タイプの今のレタスが明治以降に広がる前から日本でも知られていた野菜で、ちしゃの「ち」は「乳」で、切り口に溢れる乳白色の液がその由来らしい。そういえば同じキク科のアザミの切り口からも乳状の液が出てくる。この成分には催眠作用があるそうなので、不眠気味の方は試してみたら良いかもしれない。ステムレタスは茎の部分が徒長するのが特徴で、紀元前から中近東やエジプトでも栽培されていたらしい。どこだかで、エジプトの古い壁画に、葉っぱを掻き落として収穫しているのを見たことがある。洋の東西考えることは同じな様でlettuceのlet-もラテン語の乳を表す接頭語「lac-」から来ている。

薹と言うぐらいで、葉っぱもレタスと同じように利用できるが、茎の部分を主に料理に使う。今回手に入ったのは品種なのか薹の部分がずんぐりした奴。日本では京野菜の1つとして扱われていて、萵苣薹の西京漬けは、歯触りが秀逸だ。中国ではポピュラーな野菜で、炒め物やスープの具によく使われている。丸元淑夫の栄養の本の受け売りだが、レタスは最もアミノバランスに優れた野菜らしい。牡蠣油と炒合わせると完全食になるそうだ。なかなかピンとこないが、実はこの茎を割って干したものが、最近人気の「山くらげ」だ。

今日紹介するのは、葉っぱも茎も使った中華料理で「萵苣薹ラーメン」。思いつきのレシピなので、本場にもあるのかどうかは保証はしないが。まず、葉は掻き落として洗っておき、茎は皮を剥いて短冊切りにしておく。小鍋に手羽先肉を入れ、鰹か煮干しの出汁と老酒を少々注いで15分程煮込む。肉だけ取り出して骨を取って身をほぐしておく。スープの方は塩、醤油と味醂で味付けをする。あれば牡蠣油(化学調味料無添加が良い)を少し入れる。中華鍋に油を敷き、萵苣薹の茎を先、葉を後から炒めて、しんなりしたら、ほぐした肉と先のスープを入れ味を整える。どんぶりに茹だった中華麺を入れておき、中華鍋の中身を注ぎ入れて終わり。レタスの深い味わいが嬉しい。椎茸の薄切りを一緒に炒めても良い。ラーメンはインスタントでも生麺でも。ただし、添付のツユの素は、化学調味料がレタスの繊細な味を壊すので、捨ててしまおう。寒い日はちょっととろみをつけると暖まる。無論普通のレタスで作っても良い。

puntarelle(プンタレッレ/プンタレッラ)

henri772005-01-03


年末の野菜市場で珍しい野菜を見つけた。ローマ周辺だけで出回る季節野菜「puntarelle(プンタレッレ)」だ。やはり日本人には発音しにくいのか日本ではプンタレッラの通り名で流通している。日本でもイタリア料理ブームで国内生産しているところがあるとは聞いていたが、ここの市場では初めて見た。この農家は、いつも新しい野菜に果敢にチャレンジしていて関心する。近郊農家の強みで、それなりの需要があるらしい。取り寄せると飛んでもない代金をとられるので、こんなに安く手に入るのは嬉しい。

ローマでは冬の決まった時期しか出回らない風物詩になる野菜だ。イタリアなどヨーロッパの食卓を見ていると、最近の日本なんかよりよっぽど旬の意識が強く、スローフードという言葉がの出所がよく分かる。日本でも京野菜には、今でもしっかり旬の意識があるが、グルメを自慢する前に日本料理に一番大切な旬の感覚を失わないで欲しいと思う。さて、このプンタレッレ、水菜の真ん中からアスパラガスが首を出しているかの様な独特の形態をしている。食べてみると明快だが、チコリやエンダイブの系統の味である。学名を見ると確かにチコリの仲間だ。それにセロリの様な歯触りが加わる。イタリア料理がさっぱりして日本人に受け入れられやすいのは、こういう爽やかな味わいのある野菜が多いこともあるのだろう。

ちょっと見には食べ方は分かりにくいが、真ん中のアスパラガス状の突起部分を薄く裂いて使う(僕はもったいないので、葉の部分も使うけど、料理屋で使っているのを見たことはない)。裂いたものを水に放して白髭ネギの様にカールさせてサラダにするのが一般的だ(ローマではこの状態でも売られている)。取り合わせのドレッシングはアンチョビーとニンニクベースのものが定番である。
パスタにしても美味い。平べったいリングイーネやフィットチーネとの相性がベスト。フライパンにオリーブオイルを熱し、ニンニクと唐辛子を熱して香りが移ったら取り出し、ベーコンかハムをかりっとするまで炒める。そこにスライスしたプンタレッレを葉の刻んだところと一緒に加えて炒める、しんなりしてきたら歯触りが残っている間にアルデンテに茹でたパスタを茹で汁を少し加えながら和えて、塩こしょうするだけ。さっぱりして胃にもたれない仕上がりになる。コクの欲しい人は、パルメザンチーズ、アンチョビ、アボカドの刻んだ奴を加えても良い。

野菜カレー(その2)

前の記事で紹介したカレー・ベースを使ってベジタリアン・スタイルの野菜カレーを作ってみよう。

野菜の切れ端を用意する。野菜なら大抵のものが使える。例えば、大根、人参、じゃがいも、里芋、ブロッコリーごぼう、レンコン、セロリ、キャベツ、アスパラガス、ブロッコリ、カリフラワー、ほうれん草、モロヘイヤ、オクラ、トマト、キノコ類、最近の珍しい野菜では、苦瓜、セロリアックコールラビフェンネル黒キャベツなどもいける。

鍋に人数相当量のカレー・ベースを入れ、水を注ぐ。とろとろの仕上がりが好きな方は、カレー・ベースをミキサーかフードプロセッサでペースト状にして水を少なめにするか、コリアンダーパウダーを少し多めに振り込んでおくとよい。濃いめの味が好きな方は、水の代わりに昆布出汁を入れるのも手だ。
肝心の野菜だが、最初はオーソドックなところで、じゃがいも、大根、人参、キノコ、水煮トマトあたりから始めたらよいかもしれない。野菜を1口大に切り分け、鍋に放り込み、塩とチリペッパーで、煮詰まることを考えて好みの味付けをする。水から30〜40分くらい素材が柔らかくなるまで煮込み、クミンパウダー、コリアンダー、カルダモンやフェンネルなど好みの香辛料(最初はこれらを調合してあるガラムマサラという合わせ調味料を使うとよい。面倒な方はカレー粉でも。クミンやコリアンダーをカレー・ベースを作る時と別にもう一度入れるのは、香りを出すため。香辛料は長く煮込んで熟成する要素と新鮮な香りを楽しむ要素と2つの特性を持つため)を振り込んで塩味を調整し、もう10分位煮込めば終わり。この時にレモンかライムの汁を少量絞り込むと味の深みが増す。時間があるなら、最後の仕上げをする前に、一旦冷ますと、味がより素材に染込んで美味しい。
見栄えを気にしなければ、剥いた皮を使っても良い(味がより濃厚になる)。浮いてくる灰汁は気にしなくてよい。灰汁も味のうちということ。

要領が分かったら、野菜のバリエーションは無限なので、いろいろ試してみるとよい。煮崩れするものは、最初から煮ずに途中で加える様にすれば、見栄えよくできる。ほうれん草、モロヘイヤ、黒キャベツなどは、下茹でして細かく刻んだりミキサーで砕き、最初から加えれば緑のカレーが楽しめる。ボリュームの欲しい方は、レンズ豆やチャナ豆(水で戻す必要はない豆)を一緒に煮込むと、お腹に溜まるカレーに仕上げることができる。

野菜カレー(その1)

henri772005-01-01


常の通りで年末に仕事が溜まってしまい、大分ご無沙汰してしまった。新年から再開。

色んな野菜の切れ端が溜まって困ってしまうことはないだろうか?大根や人参のシッポ、ブロッコリの茎、キャベツの芯のところなどである。そんなときは野菜カレーを作ってみるとよい。野菜の本当の味が分かる様に、あえて肉や動物系のスープを一切使わないインドスタイルのベジタリアン・カレーを紹介しよう。僕は肉も魚も大好きでベジタリアンとは全く縁が無いけれど、このカレーを作るとしみじみ野菜の滋味を満喫できて幸せな気持ちになる。

まずは、大量のタマネギを使ってカレーのベースを作っておく。ご存知の通りインド文化圏のカレーのとろみと甘みは大抵がこのタマネギのよるものだ(そういえばインドの近くのどこだかの国で、タマネギが値上げして暴動寸前まで民衆が怒ったとか。インドスタイルのカレーにとってはそれほど重要な野菜ということだ)。これをまとめて作っておくといつでも短時間で深い味わいのカレーを作ることができる。
鍋にオリーブオイル(勿論酸化しにくい他の油でもOK)を熱し、クミンシード(カレーらしい香りの元)を弾けるまで熱する。そこにタマネギを繊維を断ち切る方向にスライスしたものを大量に入れて、中火より心持ち弱火できつね色になるまで炒める(この時、蓋がピッチリ閉まるタイプの厚手の鍋を使い、蓋をして蒸し炒めにしながら時々混ぜる方法を使うと短時間で炒めることができる)。分量はタマネギ1個で1〜2人前といったところ。タマネギがとろとろしてきたら、ターメリックパウダー(カレーの黄色、多すぎると苦くなるので注意)、コリアンダーパウダー(とろみと爽やかな香り)を振り入れて香りが立ち上がって来るまで少し炒める。これで終わりで、冷蔵庫で1週間、冷凍庫で1ヶ月は問題なく保存できる。冷蔵庫に入れるまでに常温で1晩熟成させると香りがなれてなおよい。

勿論、このカレー・ベースは、野菜カレーだけでなく、肉や魚介のカレーにも使える。
クミンを炒めるときに素材に合わせ、マスタードシード、シナモン、クローブなどのかけらを放り込んでおくとバリエーションが楽しめる。
と、いろいろな香辛料使ってますが、クミンシード以外の粉を入れるところはカレー粉使ってもそれなりの味になりますので、面倒な方はそれはそれで..

牛蒡(ゴボウ)

henri772004-11-07


牛蒡をこれだけ大量に消費するのは日本人だけだそうである。自生地はヨーロッパ、シベリア、中国北部で、日本には自生していないにも関わらず、平安期に渡来して以来、お惣菜の主役近く迄上りつめて、すっかり無くてはならない野菜となってしまった訳だ。元々は漢方薬として伝わったそうだから、多分、韓国のツリガネ人参の様な扱いだったのだろう。彼らも、薬と認識しながらもツリガネ人参など、炒め物や、キムチの様な加工品にして準野菜として根っこの類いをよく食べている。韓国に滞在したとき、牛蒡のキムチや日本のきんぴら牛蒡に近い料理を出してもらったことがある。日本の軍政が残してきたものなのか元から彼らもそういう食べ方をしていたのかは定かではないのだが、相通ずるものがあったのかもしれない。今の日本では薬膳というと普通の食卓に上る料理とは別物の様に思われているが、存外昔はもっと距離の近いものだったに違いない。そういえば、沖縄料理でも「薬(くすい)むん」と言って、食材と生薬素材が近い関係にある。中国起源の医食同源という考え方だ。

牛蒡は、意外にキク科の植物だが、同じキク科でも典型的な菊のとは別の系統に属していて、薊(アザミ)の仲間である。あまり見たことのある人はいないと思うけど、薊とそっくりの花をつける。花びらが細く管状に変形しているのが特徴だ。寿司屋に行くと出てくる「やまごぼう」は、モリアザミという薊の根っこを使ったものだ。そして野原にあって普通「やまごぼう」と呼ばれている雑草は、また全然違う系統の草で、こちらの根には毒があって食べられない。ややこしいことだ。

さて、牛蒡と言えば、やはり関西系としては叩き牛蒡が1番の調理例に挙がる。お正月は、関東では甘辛く煮た煮物の牛蒡が多いけれど、関西ではもっぱらこちらである。牛蒡の皮をこそげ、適当な大きさに切ってからちょっと歯ごたえの残る様に茹でる。取り出したら、すりこぎ等で軽く叩いて繊維を柔らかくほぐし、すりゴマと砂糖をお酢と少量の薄口醤油で溶いたものと和えて出来上がりだ。和えてから一晩程置くと味が染みて美味しい。

赤い大根(ダイコン)

henri772004-11-06


実はこれ大根なのだが、名前がよく分からない。野菜市場では、このところ本当にいろいろな種類の大根が出回っているのだが、売りに来ている農家のおばさんに聞いても皆違うことを言う。買い手が喜ぶので色々作ってはみるのだけど、自分たちも初めての挑戦なのでよく分からん、といういうことらしい。ともあれ、都市近郊ということもあって、買い手側のニーズををよく考えていて、珍しい西洋野菜から京野菜まで、かなりの種類の野菜を並べてくれるので、料理する僕らは本当に楽しませて貰っている。最近は、それを聞きつけた東京のレストランが早朝に若い人を寄越して買い占めて行く。そうなると品物が昼過ぎには品薄になってしまうので、近所の客である僕らには大迷惑だ。農家の方達には悪いのだけど、あまり紹介して欲しくないのが本音である。

さて、この赤い大根だが、辛み大根の類いだと思う。葉はちょっと蕪に似ているけれど、生で食べると大根の味で猛烈に辛い。僕の憶測に過ぎないけれど「ねずみ大根」と呼ばれる系統だろうか。この系統は植えた土によって、赤い色が出ることがあるらしい。同じ赤い大根でも、もう少しスマートでサラダの様に丸かじりできる品種もあり、そちらは「赤大根」と呼ばれている。ややこしい。大根は、日本人の食生活に深く根付いていて、先史時代から米や大豆とともに食卓の主役だったようだ。だから品種改良が盛んに行われていて、江戸の末期には100種類を超えていたらしい。そう言えば、京都の農家で門外不出の種を代々伝えている話しを聞いたことがある。逆に戦後は、青首大根が殆どになってしまい品種がどんどん減っている。グルメ日本と騒いでいるが、こういうのを見ると日本の食文化は後退している様に思えてならない。それでも、大根類は野菜の中では生産量がダントツ1番だそうだ。

大根役者よろしく「大根はあたらない」というけれど、西洋人は大根おろしが苦手な人が多い。唐辛子の辛さは大丈夫だが、アブラナ科の辛さ、つまり大根やわさびの辛さは慣れないと胃に来るという。西洋にもホースラディッシュマスタードなど同系列の辛さはあるのだけど、大根おろしで秋刀魚を頬張ったり、わさびをたっぷりつけるのには最初は抵抗がある様だ。辛み大根といえば、やはりおろし蕎麦だろう。辛い程美味しいという人も多い。僕は、辛み大根の摺り卸しで味噌を溶く信州の田舎風のスタイルが一番好きだ。これは嵌る。