フードテクノロジストの料理百科事典

僕の関わったフードプロジェクトで提供した調理手法や食材の情報を発信しています。

葉大根(はだいこん)/Ha-daikon, Leaf radish/Raphanus sativus

葉大根


(基本情報 Description)

 

大根の品種はものすごく多い。我々が日常的に親しんでいる青首大根から西洋種のラディッシュまで、長さも形も色も様々な種類が存在する。特に日本の大根の品種は多く、青首大根以外にも、守口大根、三浦大根、聖護院大根桜島大根など、江戸時代の後期には百種類以上の品種が記録されている。ただ、スーパーでは青首大根以外を見る機会が少ないのは、現代では大根の多様性が江戸時代よりもずっと退化しているためだ。江戸時代の日本は連合国のようなもので、各藩が小さな国として自治を行い、経済的には半ば自立していた。当時は農業が主要産業だったわけで、有力な藩は農業学校(主要な農業学校は、廃藩置県によって現在の農業試験場として引き継がれている)を設けて、品種改良や栽培、加工技術を競った。何故かと言うと、名産品になり得る品種を生み出せば、外貨を稼げるからだ。人気があって、他の藩や江戸、上方の大都市に流通するような商品となれば藩の財政が潤う。特に大根の品種改良は世界に類を見ないほど盛んに行われていた。戦前までは多くの品種が引き継がれていたが、戦後の農協による農業の効率化で、栽培が容易くて労力が少なくて済む青首大根に置き換えられてしまった。それでも、千枚漬けに使う聖護院大根やおでんに煮込んだ時にとろけるような食感のある三浦大根などは細々作り続けられている。ここ20年くらいは、市場の多様化や気鋭の料理人たちからの要望に応えるように、古い品種の復活の兆しも出て来ている。また、イタリア料理ブームのお陰か、西洋種系の大根(在来種の大根と区別するため「ラディッシュ」とカタカナ表記されることが多い)が移入され、赤緑、紫、黒などカラフルな大根も栽培されるようになった。栽培用に品種改良された大根は「Raphanus sativus」に分類されている。特に、日本で栽培されているものは「Daikon」とか「Japanese radish」と呼ばれる。

通常の大根は茎と根の肥大した部分(地上に飛び出ている部分が茎で、埋まっている部分が根の肥大したもの)を食べる。葉も食べることができるけど、硬いので、産地以外では切り取られて流通している。「葉大根」を大根の葉の部分と思っている人が多いが、実は品種が違い、在来種や西洋種のラディッシュ系の柔らかいものを選別して品種改良をした、主に葉を食べるための品種だ。似た形状の小ぶりのものが直売所で売られていることがあるけど、そちらは「おろ抜き大根(間引き大根)」と言って、大根を太く長く育てるために、間引いたものだ。茎根部と葉のバランスを見ると区別できる。葉大根は、大きく育った葉に比べ、茎根部が申し訳のようにしかついていない。

 

(栽培情報 Cultivation)

 

葉を主に食べるので、茎根部を甘く育てる通常の大根(茎根部が甘くなるのは、大根が凍結に対抗するために糖を蓄えるため。だから、大根が甘くて美味しくなるのは旬の冬至の頃になる)に比べて、十二月から二月の厳寒期以外は、年中比較的容易に栽培できる。移植を嫌うので、直播きして、間引きをして大きく育てる。二ヶ月余りで葉が大きく育つ。凍結には弱いので、冬はマルチを敷いておくと良い。

https://amzn.to/3NZtBrD

 

(利用のアイデア Uses)

 

普通の大根の葉は、毛が生えてごわごわしているので、そのまま食べてもあまり美味しくなく、ほうれん草のようにシュウ酸やナトリウムが多く含まれるので、茹でこぼしてから長時間煮込んで食べるのが正解。これに対して、葉大根は最初から葉を食べるように作られているので、特に下茹でなどはせずに、普通のアブラナ科の青菜や蕪の葉と同じように使える。さっと茹でてお浸しや胡麻和え、和え物にすると良い。この季節なら、茹でたキノコやさっと茹でたささみ肉をさいたもの、むしった焼き魚の身と一緒にあえても良い。浅漬け、塩麹付、ナムルにするのもありだ。キンピラのように唐辛子と醤油味で炒めても、中華料理のように、肉や魚介類と炒めても美味しい。

ここでは、大根の葉の滋味を純粋に楽しめる料理で、大根を栽培する中国や日本の農家に昔から引き継がれて来た「菜飯」を紹介しておく。収穫当日売り直売市場以外では、大根は葉をつけておくと、茎根部の旨みや水分を奪ってしまうので、通常は出荷される前に切り落とされる。この時点で大量の大根葉が余るわけで、大根の季節には頻繁に農家の定番の主食だった。貧しい農家の貧乏飯という見方もできるけど、大根の葉を長時間煮込むと、なんとも言えない滋味が出てきて、しみじみと美味しく食べられる。大根の葉をよく洗って、沸騰したお湯で長めに湯がいて、お湯を捨てる(葉大根の場合はこの手間は不要)。生米を厚手の鍋(土鍋でも良い。菜飯には伝統的に土鍋を使う)に入れ、細かく刻んだ大根葉をこれでもかというほどたっぷり入れて、水を注いで、コトコト米と葉がとろとろになるまで煮込む(冷やご飯があるならそれを使っても良い)。味付けは塩のみ。米は三分粥見当。肉や魚は蛇足。出汁も要らない。米と大根葉、自然塩だけで完全な味の調和が取れる。バリエーションが欲しいなら動物性の素材は不要で、この時期に収穫のある里芋や薩摩芋、もちなどを加えても良い。タンパク質を補うなら小豆や煎大豆、打ち豆(レンズ豆やひよこ豆を入れても良い)を入れるのもありだ。味変をするなら、ごま油、ラー油、マー油(以前の記事に自家製の仕方があるので、良ければご参照ください)、臭豆腐などを入れても良い。

 

px.a8.net

 

(出典 source)

 

https://note.com/kusamakura5423/n/na1ea860fdef6