花梨(カリン)

henri772004-11-05


花梨の実をいただいた。これから喉をやられる季節なので嬉しい。山梨県の知人の庭になったものだそうだ。結構量があるので、常の通りの花梨酒以外に今回はジャムとシロップを作ることにした。花梨の実は近くに有るだけで分かるほど、高い芳香を持っている。ただ、嫌みではなく上品な香水のそれ、そう、バラの香りである。バラ科の仲間の果物には林檎や梨、さくらんぼなどがある。確かに同系統の芳香だ。形も、よく見るとバラが終わった後につく小さな実とも似ている。花も地味ながらバラと同じく気高く可憐で僕は好きだ。名前にも梨とあるところを見ると、命名者は梨と香りの共通点を見つけたに違いない。他にも木瓜、苺がこの仲間で、確かに香り高く、果実酒にすると楽しいラインナップである。この花梨、見た目にはいかにも美味しそうに見えるのだが、口に含むとひどい目に遭う。酸味と渋みが強く、林檎の様な食感なのだけど生食には全く向かない。

花梨酒の作り方は簡単で、よく洗って水気を拭った花梨を適当に皮も種も取らずに輪切りにして、好みで氷砂糖と一緒に焼酎に放り込むだけだ。甘口が嫌いな方は氷砂糖を必ずしも入れる必要はないけれど、浸透圧の助けが無い分出来上がる迄の時間は長くなることは覚悟した方が良い(僕もこの口)。2年ぐらいすると素晴らしい熟成具合で感激する。果実酒と言えば、ホワイトリカーだけでなく、泡盛やジン、ウオッカなど他のスピリッツでも試してみると良い。個性的で奥深い味が楽しめる。

次にジャム。花梨は、皮を剥いて種を取り出し、四等分してから小口から薄くスライスして使う。塩水にしばらく漬けておいた方が独特の渋みが抜け易い様だ。塩水を捨て、実の半量のグラニュー糖をまぶしてしばらく置き、水気が出て来たら水を高さの2/3位まで注いで火を入れ、煮立って来たらとろ火にして固まってくる迄焦げない様に煮込む。砂糖を半量よりケチると美味く固まらないし保存性が落ちる。摺り卸して使う方法もある様だ。残った皮と種は捨てないで砂糖水で煮だし、花梨シロップとする。ガムシロップの代わりにカクテルに使うと素敵だ。どちらも素敵なバラ色に仕上がる。

人参(ニンジン)

henri772004-11-04


僕は人参の葉っぱが結構好きなので、野菜市場に行くと必ず葉がついたモノを丸ごと買う。スーパーや八百屋さんで葉付きが出回らない理由は、葉を付けたままにして翌日に持ち越すと、葉に養分を取られてしまうので、直ぐに切り離して鮮度を保つことが必要だからだ。青々とした葉が手に入るのは、朝取り野菜でなければ出来ない贅沢という訳だ。野菜市場でも「葉を切り落として捨てて下さい」といって持って帰らない人が多い。だから、前の人が残していくと目ざとく見つけ「それ貰えるかな?」と、ちゃっかり葉だけタダで手に入れてくる。収穫適期になった人参を収穫せずそのまま育てて行くと、塔が立って芹そっくりの花を咲かせる。セリ科の植物なのだということが分かる。葉を良く観察すると、確かに芹と似ている。同じ仲間にはパセリがある。

最近は、市場にも日本在来種の京人参と呼ばれる金時人参も出回る。煮物等にするには、木目が細かくて柔らかな食感の在来種の方がずっと美味しい。すっかりお馴染みの食材だが、普及したのは意外に遅く、明治以降、文明開化の洋食と一緒に入って来たらしい。それまでは13世紀頃に入って来た現在も関西や沖縄に残る金時人参、島人参など東洋系の人参が主力だったと聞いた。長細くて抜き取るのが大変だし、栽培も西洋系の方がし易かったというのが理由の様である。三浦大根が廃って青首大根が増えてたのと同じ経緯みたいだ。もっと昔にさかのぼると人参と言えば朝鮮人参のことで、最初は東洋種の人参は芹人参と呼ばれていた。だから古い文献では、人参は薬用人参と考えないと読み間違える。

今日は、あちゃら風の料理を2品。まずは即席ピクルス。ホーロー鍋に水とお酢を張り、砂糖と塩、適当なハーブ(月桂樹、タラゴン、ディルあたり)を加え、人参を切ったものを冷たいところから加熱して5分程沸騰させたら火を止め、そのまま鍋ごと冷ます。これだけだ。即席だが上手に作ると買って来たものよりよほど美味い。それからインド風の人参デザート、クルフィ。牛乳に砂糖を溶かし人参を摺り卸したものを放り込み、水分が無くなる迄弱火で気長に煮詰める。しっとりしているけれど水気がこぼれ出ない状態なら完璧。最初にカルダモンを振り入れて香りを付け、最後にピスタチオを添えれば、本場の完全版レシピとなる。冷やしても美味い。葉っぱは直ぐに下茹しておいて色々使おう。佃煮風にして、弁当の握り飯に混ぜ込むのが一番のお気に入りだ。

おろ抜き大根(ダイコン)

henri772004-11-03


間引き菜とも言う。台風の影響がまだ残っていて葉野菜が少ないので、これはご馳走だ。抱える程を買っても大した金額にはならない。スーパーに出荷される様なものではないので、朝穫りの農家が店を広げる野菜市場利用の特権の1つだ。野菜を育てたことの無い方のために少し解説すると、根が膨らみ始める前の大根を収穫したもので、特別な種類ではなく、普通の大根の子供である。大根は地面に直に種蒔きをするのだが、芽が出たあとそのまま放っておくと密生してしまい、根が大きく育たない。だから、充分に1つの株に栄養が回る様に適当な間隔をとり、間にある株を抜いてしまう必要がある。その抜いた株を「おろ抜き」と呼んでいる。しっかりした味があり柔らかいので、これはこれで立派な食材となる。

直播きの野菜であれば、大抵この「間引く」という作業が必要になる。昔、野菜を初めて栽培してみた時には、この「間引く」感覚が良く分からず、もったいないという無意識が先に立って上手に間引けず、収穫量を減らしてしまう羽目になった。一度も庭と呼べる程の広さの住まいに住んだことがなく貧乏性なもので、密生で肥料を無理矢理ぶち込んでしまいがちになる訳だ。結局は、肝心な根茎部分が中途半端な大きさに留まってしまったり、実のなる作物なら、実の付きが極端に悪くなってしまった。大胆に間引くのがコツだが、最初は分かっていてもなかなかそうはなれなかった。土地持ちの友人にそのことを話したら、そんな経験はないと笑われてしまった。

さて、このおろ抜き大根だけど、おおよその葉野菜の献立は全て適用出来る。小さなものはそのままみそ汁に放り込めば良いし、少し育ったものは、固い根の上部とヒゲを切り取り、一夜漬けにしたり、炒め物に使う手もある。今回は、酢みそ和えにすることにした。煮立ったお湯に根の方を先に放り込んでから葉を入れてさっと茹でて急冷して絞っておく。下ごしらえだ。大量に扱うときはここ迄で冷蔵庫に保管すれば鮮度が保て、何にでも応用出来る。好みの味噌を出汁少量でゆるめ、お酢と合わせて適当に切った下ごしらえ済みのおろ抜きと和えるだけだ。長く置くと色が変わってうまみが逃げるので、食べる直前に和えると良い。

柿(カキ)

henri772004-11-02


柿の季節になった。昔は、どこの家でも表庭には柿、裏庭には無花果が植えてあったのを思い出す。最近は、産地にでも出かけないと、鈴なりの実をつける見事な木にはお目にかかれなくなった。裏庭の無花果も誰が言い出したのか、縁起が悪いと抜いてしまった人が多い様だ。子供の頃は僕だけかも知れないが、木登りや人様の庭の果物を盗み食いするのが遊びの定番だった。柿の木は折れ易いからと良く大人から注意されたものだ。今、木に登っている子供などいなくなってしまったのだろうか。スーパーなどには産地からの甘い柿の実が並ぶのだが、少々いびつでも枝付きの柿を野菜市場から買ってくる。食べる迄、枝のまま放っておくとちょっとした秋の彩りが楽しめるからだ。

柿は外国でもKAKIと呼ばれ、日本の田舎の風景に良く似合う。化石を調べると縄文時代から生えていて、食料や数少ない甘みの嗜好品としてだけではなく、日常の生活に密接に関わる植物だったらしい。柿渋(かきしぶ)の利用である。調べた訳ではないので真偽は保証しかねるが「渋い趣味」という時の「渋い」は柿渋染めから来ているのでは無いかと思う。柿渋は青い柿を摺り卸して搾り取った液体を瓶で発酵させて作る。昔は結構あちこちの家で藍の瓶と柿渋の瓶を持っていて、日常の染めに使ったらしい。特に柿渋は防虫性や防水性があるので、漁労網や番傘、張り子の保存箱等に使われた。鰻屋さんがパタパタやっているあの団扇も本来柿渋染めである。和紙に強度と防水性を持たせるためだ。最近はリバイバルで染料や塗料として見直されているらしい。大歓迎だ。

柿と言えば干し柿、特に干し柿の膾(なます)は大好物だ。大根や人参などを塩揉みして裂いた干し柿を混ぜ込み、ごくごく控えめに甘みを補った酢の味を染ませる。果糖の上品な甘さをゆっくり楽しめる秀逸な箸休めだ。また、大根を薄くスライスして塩でしんなりさせたもので、この干し柿とゆずの刻んだものをくるくると端から巻き込み、やはり甘酢につけ込む。数本を巻物の様に気の利いたお皿に盛りつければ、大層上等なお茶請けとなる。しばらくご無沙汰しているが、来年は渋柿を取り寄せて干し柿を手作りしてみようかと思う。

salvia microphylla(チェリーセージ)

henri772004-11-01


ベランダの片隅で、ゴールデンウィーク頃からすっかり寒くなるまで非常に長く花を付けて楽しませてくれるのがチェリーセージと呼ばれるこの植物だ。数年前に植えたのだが耐寒性がある様で放っておいても何度も赤い可憐な花を咲かせてくれる。タイトルの学名を読んでいただくと分かるが、いわゆる「サルビア」である。日本語のカタカナ語は、ラテン、ゲルマン語読み起源のものと英語読み起源のものがあるのでややこしいのだけど、サルビアラテン語起源の読み方、セージは英語起源の読み方だ。専門家ではないので良くは分からないが、おおよそ、料理用のハーブをセージ、観賞用の方をサルビアと言い分けている様だ。シソ科の植物の常で非常に交配し易くて種類がもの凄く多く、僕の分類知識では怪しいが、一応microphyllaだと思う。

シソ科の植物の特徴は、その素敵な芳香にある。アロマテラピーが盛んだが、シソ科起源の爽やかな香油成分を利用したものが多い。日本の紫蘇を始め、ローズマリーやミント、バーベナなど爽やかな芳香を持つハーブは大抵この仲間である。サルビア類は、その中でも料理用のセージと同じサルビア属に属する。チェリーセージはヨーロッパ原産のセージとちょっと系統が違いメキシコ原産らしく通常は観賞用に庭に植えられている。ただ、ハーブティーにしても、セージ独特の苦みと爽やかな香りで楽しむことが出来る。庭にこれが植わっている方は試してみたらいかがだろうか?ただし、煎じすぎると苦くなるので少量を使うことだ。普通のセージも隣に植わっているが、こちらの方が断然元気が良い。

この植物の葉に触れると、しっとりした感触と共に、何とも爽快な香りが指先に移ってくる。これだけの芳香があるので薬効もありそうなのだけど、念のためイギリスのデータベースで調べてみた(http://www.comp.leeds.ac.uk/cgi-bin/pfaf/arr_html?Salvia+microphylla:流石植物ハンターの国と思えるデータ量でいつも関心する)。「A herbal tea, called 'mirot de montes', is made from the leaves.」とある。「mirot de montes」とはどんな飲物なのだろうか?ご存知の方がいらっしゃったらお教えいただきたい。

echalote?(エシャレット)

henri772004-10-31


この花をご覧になったことがあるだろうか?居酒屋メニューによくある味噌を付けて食べるあの「エシャレット」の花である。有り体に言うと「らっきょうの花」でもある。というのは、市場でエシャレットと呼ばれているものは、らっきょうを軟白栽培(関東の白いネギにも使われる技法で、土を根元に寄せて日光に当たらない様にして白く柔らかくする栽培技法)したものに他ならないからだ。発祥の地は浜松で、気候や土がらっきょうの栽培に適していて、昔かららっきょうの産地だったところである。その早穫りを生で薦められた市場の関係者がこれは売れると考え、今でいうブランディングに成功したのが始まりらしい。元々加工用のらっきょうに付加価値が付いた訳だ。

早めに収穫し軟白に仕上げられているお陰で、らっきょうほど辛くなく、さわやかな後味で生食出来る。子供が好んで食べる味ではないが、元々ネギの系統の薬味の好きな日本人の大人には、酒のつまみや脂っこいものの口直しに受入れ易かったのだろう。らっきょうの場合根球部のみの収穫が目的なので、それ程は気を使わない。手のかかっているエシャレットはずっと上まで土を被せるので茎まで食べられる。他にも昆布と鷹の爪を加えて軽く塩して一夜漬けにしたり、衣を付けてフリッター風にするなど素材を活かす料理法なら、野趣が味わえて美味しい。最近流行の沖縄の「島らっきょう」も「島」がついているが品種的には同じらっきょうで、早穫りして塩漬けしたものである。僕はらっきょうが好きで、漬かり始めの塩らっきょうをつまんでしまう程だが、人によっては胃に来るらしい。このエシャレットなら大丈夫かもしれない。

実は、タイトルにあるフランス語を書くと事態はややこしくなってくる。ヨーロッパ人がソースを作る時に必ず使う「エシャロット」と同じだからだ。エシャロットはタマネギとニンニクの間の様な味のするユリ科の根球だが、今でも市場ではタマネギとニンニク以外のユリ科の根球を「エシャレット類」というくくりで扱っているので混同している人も多い。エシャレットでソースを作ってこんなものだと思われたらフランス人が気の毒ではある。まだエシャロットが一般的で無かった頃にらっきょうの訳語をフランス語の辞書で見つけ、しゃれて採用したということだったらしい。だからといって、生食らっきょうとか軟白らっきょうといった商品名では、こんなには売れなかったに違いない。

Saffron(サフラン)

henri772004-10-30


サフランの花が咲いた。何年前だったろうか、サフランの球根というのを見つけて買って来た。それ以来毎年、ほんの数株だがこの季節になると花を付けて楽しませてくれる。姿形は園芸品種のクロッカスににそっくりで、違いは、香料である乾燥サフランを取るための農赤の雌しべが3本ぬっと花弁の外側に伸びている点。香料になる部分はこの雌しべの先端のみ、1つの花から3本しか穫れない。高価な筈だ。たまに極端に安いものが海外で売られているが、代用品の紅花類の花なので注意しよう(色が出るだけで香りは無い)。スペインの物と考えている人が多い様だが、その殆どがイランで生産、輸出されている。10日程しか花期がないので、この間は現地の人は総出で収穫するそうだ。僕の花からの収穫はかろうじてリゾット2人前分だろうか。

サフランのリゾット」の作り方は、米を洗って10分程ざるにあけておく。早く洗いすぎるとアルデンテに仕上がらないので、直前に。みじん切りしたタマネギと小口切りした豚肉を手鍋でオリーブオイルで炒め、タマネギが透き通ったら米を入れて一渡り炒め、最後に入れるチーズの塩分を考慮して控えめに塩こしょうする。豚肉に塩豚を使うとコクが出て美味しい。逆にさっぱりと食べたい向きには肉を省略しても良い。サフランを数時間漬けておいた湯と、辛口の白ワインかシャンパン(無ければ日本酒)の混合したものを米の倍量加えて、蓋をしないで弱火で焦げ付かない様時々スプーンでかき回しながら煮る。米が水分を吸い途中で煮汁が足りなくなるので、適時足しながらアルデンテ状態に煮上げる。最後に好みでパルミジャーノチーズとバターを加えて火を止め練り上げれば出来上がりだ。サフランの素敵な香りと輝く様な黄色を楽しむ事が出来る。

サフランの献立で他に秀逸なのは、パエリアやブイヤベース、牡蠣スープサフラン風味だ。サフランの香りを楽しむならブイヤベースが最適だろう。白身魚とジャガイモが何とも言えない色と香りに包まれる。本場のブイヤベースはブイヤベース憲章により作り方が決められている。興味のある方は、フランス語しかないがrecette(レシピ)がhttp://www.bouillabaisse.com/_sommaire.htmlにあるので、挑戦してみたらいかがだろうか。もっとも憲章によると地中海の魚限定とあり、日本では絶対に作れないのだが。